
舞台は、雨が降り続く街 ピオーヴァ。
物静かな雰囲気で統一され、つねに雨が降り続いている街を舞台とした今回の物語は、儚げでどこか不思議に懐かしい世界へとプレイヤーを誘います。
現在、SwitchとSteamにて購入できる「シンフォニック=レイン」は、もともと2004年にパソコンゲームとして発売されたノベルゲーム。
すでに発売からは15年以上。しかし、今になってプレイした筆者にとってもかけがえのない作品となった。
「買って良かった」と心からいえるゲームである。
【総評】美しく繊細な文章や世界観が好きならぜひプレイしてほしい
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シンフォニック=レインは、「鬱ゲー」といわれることも多いが、その憂うつさはまさしく雨のような憂うつさだ。
決して暴力的に心を殴りつけるようなものではなく、とても静かで繊細で、だけど常に幸せとも不幸とも言い切れないどっちつかずの不安さを抱えているような……。
静かに静かに胸を締めつけたり、ときめかせたり、ホッとさせられる作品だった。
美しく繊細な文章はゲーマーのみならず、読書家の胸にも響くはず。
実際、普段ゲームをやらないという人たちも、岡崎律子さんのアルバム(シンフォニック=レインの楽曲を収めた)をきっかけにプレイし、とてもよかったという口コミを残している。
一見するとわからない要素が多く、ネタバレを避けると語れない魅力も多いので……少しでも興味を持たれた方はぜひともプレイしてもらいたい。
ゲーム「シンフォニック=レイン」の魅力
美しく読み応えのあるシナリオ
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その場の空気感がまざまざと感じられるシンフォニック=レインの描写は美しく、繊細である。そして何よりも読み応えがあった。
正直なところ、そこまでストーリーに期待もしていなかったのだが、気づけば見事に引き込まれていた。
話を進めれば進めるほど、どんどん明らかになっていく事実には驚くばかりで。その展開の巧みさからも、いわゆるギャルゲーとしてひとくくりにはできない。
小説としてみても、とても面白い作品であった。
そっと登場人物たちに寄り添うような名曲たち(作曲:岡崎律子)
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公式サイトより引用
岡崎律子さんといえば、「フルーツバスケット」の初代アニメ主題歌「For フルーツバスケット」や「小さな祈り」で知っている方も多いだろう。
シンフォニック=レインで使われている曲はすべて岡崎律子さんが作詞・作曲を手がけているのだが、素晴らしい。
どの曲も岡崎律子さんらしい、人肌のぬくもりを感じるかのようなやさしくあたたかいメロディで癒やされる曲ばかりであり、これがまた美しく残酷なストーリーに映える。
岡崎律子さんの曲たちがなければ、ここまでの作品に仕上がっていなかったのではないだろうかと、そう思わされるほど完成度の高い曲であった。
ホッとさせられるやわらかいイラスト
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しろさんの可愛らしく線の細い絵は、今時のいわゆる萌え絵とは違うため、はじめはパッとしないように思う人もいるかもしれない。
しかし、ゲームを進めていくと、「このイラストだからこそ世界にマッチしている」「ホッとする」と感じさせられるだろう。
(正直、筆者はイラストを見た時点では「この子が好き!」という感覚にはなれなかったのだが、話を進めたらどのキャラも大好きになってしまった……)
ネタバレ&攻略(タップで開閉)
おすすめの攻略順
攻略
「リセ⇒ファル⇒トルタ⇒al fine⇒da capo」の順が個人的にはおすすめ。
※3人の攻略が終わってからゲームスタートを選択すると「al fine」と「da capo」の選択肢が現れます。
音楽ゲームのコツ
攻略
バーの丁度真ん中あたりでボタンを押すようにしよう。ほかの音ゲーに慣れている人ほど早めに押しやすく、BADが出やすいように思う。
とくに難易度の高い雨の「musique」は、クリアが難しいようなら、サビ部分は片手だけでプレイするのもあり。(片手は捨てる)
※音楽ゲームはオートにすることも可能
主なキャラクター一覧
※キャラクターのネタバレにおいては、個人的なキャラ解釈も含まれています。
トルタ(トルティニタ・フィーネ)
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主人公・クリスの恋人である「アル」の双子の妹。
クリスと同じ音楽院に通っている17歳。
ネタバレ(al fineクリア後推奨)
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健気すぎる。その一言に尽きる。
大事なクリスとアルのことを一番に考えて動いて。それでも時折、出てしまう人間らしいずるさに罪悪感を抱いて。誰にも相談できずに一人で堪えて堪えて……。
al fineルートでは、卒業演奏のあとにクリスの元へとアルの姿で行くか、トルタの姿で行くか選ぶことになるが……。
アルの姿で行った場合は罪悪感でいっぱいになって、クリスと一緒にいる未来を選べなくなってしまったのだろうなと思う。
自分がこんなずるくてひどいことをしている間に、アルは一人で苦しんで逝ってしまった、と。なんて自分は最低なのだろう、と。
事故がなければ……
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こんなことにさえならなかったら、失恋の痛みを感じながらも、楽しい高校生活をトルタは送っていたんだろうなあ。
いずれは新しく好きな人もできていたかもしれない。
……と思うと尚のこと、誰よりも幸せになってほしいキャラクターである。
アル(アリエッタ・フィーネ)
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クリスの恋人であり、トルタの双子の姉。17歳。
クリスたちの故郷に残っており、現在クリスとは遠距離恋愛中。
ファル(ファルシータ・フォーセット)
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クリスと同じ音楽院に通っている17歳。元生徒会長であり、優等生。
ネタバレ(ファルルートクリア後推奨)
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元々、優等生タイプがあまり好みでない筆者。しかし、いうほど真面目でもなくちょっとしたルールは破るし、信仰心が強い訳でもなく、ときにはおちゃめで強引で。どんどんクリスとともに惹かれていって。
卒業演奏前日の展開には、クリスとともに息をつまらせた。
このときの声のトーンの変化がまたすごい。優しい声なのはこれまでと変わらないのに、どこか突き放すような声がぞくりとする。
ファルの幸せとはなんなのだろう?
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結果として、ファルは恋愛よりも夢を選んだワケだが……彼女の本当に欲しいものとは、幸せとはなんなのだろうと考えずにはいられない。
彼女は孤児院で育ち、「歌」しかなかった。心から自分を守ってくれる存在もなく、「自分」しか頼れるものはなかった。
その末に見つけた幸せのカタチが「歌の世界で成功すること」だったのだろうが、クリスをそのための道具のアルように扱った先に、ファルは本当に幸せだと心から感じられる未来はあるのだろうか。
歌の世界でトップに立ったとき、空虚感を覚えやしないだろうか。
(それでもファルは自分が最良と思い選んできた道を後悔したりせず、凛と最後までやり遂げるのだろうけど)
きっと「クリスと一緒に幸せになる」道だってあったはずだし、ファルも思い描いたことはあっただろう。
ただ、自分の力だけで生きてきた彼女が、他人の力も必要となる恋に人生を賭けるなんて、まずできないだろう。
もっと早くに2人が出会っていたなら、もっと決断を下すまでに時間があったなら、違う未来を選べたのではないだろうか。そう思ってしまう。
リセ(リセルシア・チェザリーニ)
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クリスと同じ音楽院に通っている15歳。
常におどおどとした印象で言葉数も少ない。小動物的な女の子。
ネタバレ(リセルートクリア後推奨)
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ずっと小動物のようにおどおどしては、相手の都合ばかりを優先して遠慮していた子が次第に心を開き、自分のやりたいことを伝えてくれるようになっていくのがとても嬉しい。
とにかく可愛らしいキャラクターで、良い子。
作中で「クリスによく似ている」とフォーニが口にするが、人を信じやすく、野心もなく、楽しく歌えれば(弾ければ)それでよいなど、全体的な性格は確かに似ているように思う。
GoodEndとは思えない最後の展開
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そんな上手くいくはずはないと最後の演奏会まで思ってはいたが、なんだかんだ救いのあるラストがくると思っていたので……。
「もう歌えない体にされた」という言葉をきちんと理解できないままエンドロールが流れても呆然。どこかで選択肢を間違えたのかと調べてしまうほどだった。
エピローグに入り、ようやくリセが大好きだった歌をうたえなくなったどころか、ショックのあまりに壊れてしまったことを理解して泣いた。
2人とも音楽で有名になりたいや稼ぎたいというタイプではないので、その道を諦めざるを得ない展開は別に構わない。
ただ、やっぱり2人には、裕福ではなくてもいつも笑顔と歌の絶えない幸せな家庭を築いてほしいな、と……。
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まだ、希望は見え始めたばかりというところだと思う。が、ぜひとも未来には幸多からんことをと素直に祈ってしまう毒のない2人だった。
音の妖精 フォーニ
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クリスの住むアパートに住み着いているが、クリス以外からは姿が見えない。
小さな音の妖精であり、歌うことが大好き。
ネタバレ(da capoクリア後推奨)
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フォーニルートは、現実逃避感がとても強く、今までになく明るく楽しい印象のあるシナリオながら、常に闇が忍び寄るような不安と恐さがあった。
でも、EDは想像以上にハッピーすぎて、よかったなあ、本当によかったなあ、と。
トルタのこれまでの苦労が脳裏にちらついたりはするものの、とにかく「よかった」という気持ちに包まれた。
しっくりとくるEDを迎えた本を読み終えたときのような、心地よさがじんわりと広がるストーリーだった。
クリス
主人公。音楽学院の生徒であり、卒業演奏を控えているがパートナー探しにあまり精力的でない。
かなりマイペースでトルタ、アル、フォーニなどから度々、世話を焼かれている。
ネタバレ(al fineクリア後推奨)
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al fineルートで明かされるクリスの真実は、想像の上の上だった。「ウソでしょ?」と思わず声に出るほどに。
そして、トルタ視点とクリス視点での感じ方の違いにも、なんとも言えないものを感じさせられた。
トルタの笑顔や振る舞いの裏側に隠されていたものをクリス視点ではきちんと理解できていないことに気づき、心を揺さぶられる。
al fineルートをはじめるまでは、「ああ、本当はクリスのことを好きなのにアルのことを思ってグッと堪えるのは辛いな……」ぐらいにクリスもプレイヤーも思い、トルタのことをきちんと理解しているような気分になる。
でも、al fineルートで明かされるトルタの苦悩はそれ以上で……。なんだか無性に「ちゃんとわかってなくてごめん」といった罪悪感に苛まれるほどだった。
アーシノ
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クリスと同じ音楽院に通っている17歳。
クリスの唯一の男友達。斜に構えたところがありキザ。
ネタバレ(ファルルートクリア後推奨)
自分を価値ある人間だと信じ込んでいるぽんこつ。それだけに憎めないキャラ。
クリスを利用しているなど、斜に構えた発言がクリス以外の前ではとくによく見られるが、コーデル先生もいっていたように、根はおぼっちゃん的な甘えた。
ファルのように自分の利益のために他人を手ひどく切り捨てるなんてことはできないだろう。